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Football × Journey = Pura Vida!

Pura Vida!とは中米コスタリカの挨拶でよく使われる「素晴らしい人生だよ!」の意味。

カレーと本。

 

代々木の古民家カフェ『 DADA CAFE 』。

お店は残念ながら1年半前にクローズしてしまったのですが、

あまりに好きで、行くたびに食べていたカレー

「 タンドリーチキンとカシューナッツのトマトカレー 」

が期間限定で復刻するということで、いざ参宮橋へ。

 

やっぱり美味しかったーーー!!!!!

 

豊かなコクとマイルドさのバランス感、

そして、タンドリーチキンの柔らかさ、たまらんのですよ。

 

 

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DADA CAFE でこのカレーを食べてたときは、

練習が休みのときが多かったので( サッカー指導者時代 )

お供となる本もサッカー系じゃないものがほとんどでした。

 

たしか、後藤繁雄さんのインタビュー集『 五感の友 』や

エッセイ集『 ノマディズム 』なんかを読んでたんじゃないかなぁ。

 

今回の復刻DADAカレーのお供は、

リオデジャネイロに降る雪 』( 福島伸洋・岩波書店 )という

1年間リオデジャネイロに滞在したことのある著者によるエッセイ。

 

 

 「 すべてが終わるときにはじまる祭りのために 」

 

 

1ページ目にそんな言葉が紹介されている、

個人的には何か予感めいたものを感じている本です。

 

 

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カレーを食べながら読んでいたこの本の、

「 静かなクリスマス・イブの夜に 」というお話、

これがすごく良かったので、ぜひみなさんにも読んでほしく。

 

ブラジルをはじめ、

中南米の国に自分が強く惹かれるのは、

そう、こういうところになのです。

 

 

 「 12月24日の夜のことだった。

   カトリック教徒の多いブラジルでは、

   クリスマス・イブには家族で集まって夕食を取り、

   イエスに思いを馳せながら過ごすひとが多い。

   ほとんどの店が閉まり、街に人影はまばらになり、

   車の通りも少なくなり、

   いつも喧噪の直中にあるコパカバーナも、

   厳戒例でも布かれたように静まりかえっていた。

   日本から遊びに来ていた友達もすでに寝入っていたので、

   部屋の明かりを落として、ぼくはひとり、

   何か子ども向けのクリスマスのドラマをTVで見ていた。

 

   夜の11時を過ぎた頃、

   路上の駐車場でクラクションが鳴り始めた。

   鋭いブザー音が聖夜の静けさを切り裂く。

   駐車場を囲んで建つ三方の、

   それぞれ十数回建てのビルの窓々から人びとが顔を出して、

   クラクションを鳴らし続ける男に罵声を浴びせ始めた。

   何が起こっているのかと思って、

   7階にあった自分の部屋の窓からぼくも外をのぞいてみた。

   その男は車を出したかったのに、

   前を別の車にふさがれてしまい、立ち往生していた。

 

   鳴らしても鳴らしても、

   じゃまになっている車の持ち主は現れない。

   久しぶりに両親の家に帰ってきて、

   フランス産のシャンパーニュを飲み、

   七面鳥の丸焼きと、パネトーネ

   ― イタリア生まれのそのケーキは、

   ブラジルのクリスマスに欠かせないものになっている ―

   を味わって、すでに幸せな眠りに就いた

   誰かの車だったのだろうか。

   クラクションが長引くにつれ、

   窓から顔を出すひとの数も増え、

   ブーイングも激しくなっていった。

   男はついにあきらめて、

   クラクションを鳴らすのをやめた。

   どうするのか。

   人びとは固唾をのんで見守った。

 

   男はひとり、

   じゃまになっている車を

   後ろから押そうとし始めた。

   どれほど重いものなのか

   ぼくにはわからなかったけれど、

   それは無理だと “ 観衆 ” が感じているのは

   手に取るようにわかった。

   怒鳴るのはやめていても、

   くつろいで過ごす時間を割いて

   駆けつけるわけでもなく、

   ことの成り行きを見守ろうと、

   誰もが窓辺に張り付いていた。

 

   街灯の乏しい光の下、

   車が少し動いたように見えた。

   目の錯覚かと疑ったとき、

   タイヤが転がり始めたのが

   はっきりと見て取れた。

   車は動いていた。

   男がとうとうじゃまな車をどかすのに成功すると、

   少し前まで容赦ないブーイングを浴びせていた人びとが、

   いっせいに歓声を上げ、惜しみない拍手を送った。

 

   車をどかすというだけの

   つまらない仕事が、その瞬間、

   サッカーW杯の決勝戦で勝利を決定づけるゴールを

   決めたような偉業に変わっていた。

   ありふれた駐車場と立ち並ぶビル群が、

   マラカナン・スタジアム

   グラウンドと観客席に変わっていた。

   家族に囲まれて

   ただ平穏に過ごすことができるという、

   ふだんは忘れてしまいがちな幸せを

   噛みしめる静かな時が、

   熱く騒々しい祭りの時に変わっていた。

 

   ブラジル人は、祭りをするべき時を知っている

   誰もが何となく思っていることを

   誰よりもぼくが感じたのは、

   そのクリスマス・イブの夜だった。 」

 

 

人間ってやっぱいいなぁ、と思える瞬間は本当に幸せです。

そして、DADAカレーにまた、嬉しい記憶が刻まれたのでした。

 

 

 『 彼らは、

   2月のカーニヴァルや週末のサッカーのような

   大がかりな祭りで盛り上がるだけではなくて、

   何ということのない一日を

   誰に対しても開かれた祭りに変える魔法を、

   日々あたりまえに使っているのだと思う。 』

             「 リオデジャネイロに降る雪 」より

 

 

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